名古屋高等裁判所 昭和46年(ツ)1号 判決 1971年3月10日
上告人 垣内勝次郎
右訴訟代理人弁護士 普森友吉
被上告人 中田勇五郎
<ほか二名>
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人普森友告の上告理由について、
第一、原審は、本件係争土地はもと上告人と亡垣内政直が各二分の一の持分をもつ共有に属していたが、政直は昭和三一年一月六日その持分を上告人に贈与し上告人の専有となった、しかるにその旨の持分権移転登記手続を求めた上告人の意に反して登記官の錯誤により過って昭和三二年三月二九日政直の専有名義に移転登記がなされたのであるからその登記は誤りであり抹消さるべきものであるが、政直は、その後、これを被上告人ら三名に売却し、昭和四三年四月一五日上告人らにその所有権移転登記手続をしたと認定し、政直から被上告人らあてになされた本件土地全部の所有権移転登記は上告人の持分に関する限り他人のものの売却であって無効であるが、残りの政直の持分については政直が上告人らと被上告人らに二重譲渡したこととなるので上告人への贈与は登記がなく、却って売買による登記を得た被上告人らが民法一七七条にいう登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者であり、上告人の受贈はこの被上告人らに対抗できないと判断したのであり、この判断は正当であり、右判断に所論の違法はなく、論旨は採用できない。なお付言するに、前記事実関係によれば上告人は政直から本件係争地の持分の贈与を受けて間もなく、その所有権移転登記手続を申請したのに、登記官の過誤により逆に政直の専有名義に移転登記がなされたものであって、上告人が登記を放置しておいたのではないから、登記を欠いたことに対する責は、二重譲渡の場合に登記手続を放置しておいた第一の譲受人の場合のように重いものではない。しかしたとえそれが登記官の過誤によるものであっても登記面に全然現われていない限りは結局未登記の場合と同じであるから先に登記を完了した被上告人らに本件係争地の持分取得を対抗できず、被上告人らえの移転登記の抹消を求める上告人の主張は採用できない。上告人が援用する判例は無権利者から物件を買受けた第三者に関するもので本件に適切なものではない。
第二、いわゆる背信的悪意者が民法一七七条の第三者に該当しないという上告人の主張は当裁判所も是認できるが、上告人は原審において被上告人らが右にいう背信的悪意者であるという事実については主張をしていないのであるから原審がこの事実について審理しなかったとしても原判決には審理不尽、理由不備があるとすることはできず、論旨は理由がない。
されば本件上告は理由がないので、民訴法四〇一条によりこれを棄却し、上告費用は同法八九条、九五条により上告人の負担して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 菊地博)
<以下省略>